不如意を口実に断らんか。お受けした上で、慣例まで破って、けちけちすることがあるか。内匠を早く呼びなさい!」
上野が、こういっていたとき、内匠頭が険しい目をして、足早に家来の後方へ現れて来た。
「何か不調法でもいたしましたか」上野に、礼をもしないでそういった。
「不調法?」上野は頷いて、「不調法だ! この畳の縁は何だっ!」
「繧繝です」
「繧繝にもいろいろある。これは、何という種類か」
「それは知りません。しかし、畳屋には、繧繝といって命じました。確かに繧繝です」
「模様が違う。取り換えなさい!」
「取り換える?」
「そうだ!」
「今から」
「作法上定まっている模様は、変えることにはなりませぬぞ。いくら、貴殿が慣例を破っても、こういうことは勝手には破れんからな。即刻、取り換えなさい。次……」
そういうと、上野は内匠頭の返事も待たず、次の間にはいった。
内匠頭は、蒼白になって、その後姿をにらんでいた。
六
明日の、勅使の接待方の予定が少し変ったときいて、内匠頭は、伊達左京を探してきこうとしたが、茶坊主が、
「もう、お下りになりました」といった。
「吉良殿は?
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