て、行き過ぎようとした。
「教えて下さらんのか?」
「教えて下さらんというのか、内匠、貴殿、わしが教えてきいたことがあるか?」
「明日のことは、儀式のことにて、公事ではござらぬか」
「公事なればこそ、先刻通達したときに、なぜききもらした?」
「それは、拙者の不念ゆえ、お教えを願っているのに」
「貴公の不念の尻拭いをしてやることはない!」上野は、そういって歩き出した。
「教えんと、おっしゃるのか」内匠は、後から必死の声で呼んだ。
「くどい!」
「公私を混同して……」と、内匠がいうと、
「それは、貴公だろう。金の惜しさに、前例まで破って!」
「何!」
梶川が、
「あっ!」と、低く叫んで立ち上った。上野は、
「何をする!」と、叫んだ。内匠頭の手に、白刃が光っていた。
上野は、よろめいて躓《つまず》くように、逃げ出した。内匠頭が及び腰に斬りつけたとき、梶川が、
「何をなさる!」と叫んで、組みついた。
七
「内匠頭は、切腹と決りました」と、子の左兵衛が枕元へ来ていった。
上野は、横に寝て、傷の痛みに顔を歪めていたが、
「そうだろう」と答えた。
「お上では、乱心者とし
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