ても、むだじゃった。
名主 お上じゃ、誰でもかまわん。下手人を磔にして、御威光を見せれば、ええんじゃ。
村人二 なんぼ考えても、甚兵衛どんは可哀そうじゃ。あの時は、みなめいめいに、石を投げたんじゃけにのう。ただ甚兵衛どんだけが、正直でずけずけいうてしもうたんじゃけにのう。
村年寄 まあ、ええわ。わしゃ芝山の観音さんが、村中を助けて下さるために甚兵衛どんに乗り移ったんじゃと思うとるんじゃ。
茂兵衛 もう、なんぼ嘆いても取り返しがつかんわ。甚兵衛どんに死んでもろうて、その代り、後をようするんじゃ。
名主一 そうじゃ。後で村の神様に祭るんじゃ。
茂兵衛 祭るとも。祭るとも。ほんまに讃岐領の宗五郎様じゃ。義民の鑑《かがみ》じゃ。
村人三 それにな、ほかの人じゃったら、それにつながって、首打たれる親兄弟が、可哀そうじゃがのう。あのおきん婆や甚吉は、あんまり可哀そうじゃないわ。長年甚兵衛どんを苛めた罰じゃと思うと、かえって気色がええわ。
村人四、五 おおそうじゃ。それがあるわ。
村人六 わしはな、甚兵衛どんに食べてもらおうと思うてこななもの持って来たんじゃ。
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