野様に、石を投げたというと、お前磔じゃぞ。
甚兵衛 (さのみ驚かず)磔じゃとてええわ。村の衆が、みんな欣んでくれるんじゃもの。
甚吉 阿呆め! 俺のいうことをきいて、早う取り消せ。早う、取り消せ。お前のためにいってやるんじゃぞ。
甚兵衛 あははは。わしのため! あははは。わし二十九になるけど、お前がわしのために、ええことしてくれたこと一つもありゃせん。
甚吉 ええ何ぬかす。この阿呆め。……お庄屋様、お役人様。兄の申すことは、みんな嘘でな。こりゃ、阿呆じゃ。足らんのじゃ。こななもののいうこと、お取り上げになっては困りまする。お願いでござりまする。(座って狂気のように頭を下げる)
甚兵衛 (弟にならって頭を下げながら)お庄屋様、お役人様。ほんまじゃ。わしは、こななでっかい石投げたんじゃ。馬に乗ったお武士が来たけにのう、それを目がけて、こななでっかい石投げたんじゃ。
甚吉 何いうだ。この阿呆め。お前のような不具者に石が投げられるけ。
甚兵衛 何いうだ。お前は一揆について来んじゃもの。わしがしたことがお前にわかるけ……。わしゃこななでっかいやつを……。
甚吉 (兄に掴みかかる)何ぬかす……。(
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