てな、名乗り出てもらいたいんじゃ。
村年寄甲 難儀なことになったものじゃのう。
村年寄乙 恐ろしい災難じゃのう。
名主一 皆さん、今きかれる通りじゃ。御奉行様は、またこう仰せられた。下手人が、相知れぬときには、村一統の者をくくり上げて、あくまでも糺明するつもりじゃとのう。
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(一同顔見合わせ蒼白になってしまう)
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村人五 わしは、左の手に炬火を持ち、右の手に竹槍を持っていただけに、礫を投げようたって投げられやせなんだ。
村人二、三 わしやってそうじゃ。
村人四 わしやってそうじゃ。わしは、松野様のお馬が見えたとき、すこ飛びに逃げたわ。
村人七 わしは、またずっと後れていたけに、松野様のお馬はおろか御家中の姿やこし、まるで見かけなかったわ。
勘五郎 おいおいみんな、自分の身の明しを立てるよりも、今は村の難儀を考えるときじゃぞ。
藤作 そうじゃ、よういった。よういった。自分の身一つ逃れるよりも、村の難儀を逃れる工夫をするのが肝心じゃ。
茂兵衛 (それに力を得たごとく)そうじ
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