あった。お前もうんと働いてくれ、はははは。その代り、白い飯でもなんでも食わしてやるぞ。(歩き出す)
甚兵衛 (やや遅れて恨めしげに)わしを打首にするつもりかの。
おきん 何をいうだ! お前に、たんと、白い飯を食わしてやりたいのじゃ。はようとっととついて行け!
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(甚兵衛、愚鈍な顔にも、母親を恨めしげに見返りながら、竹槍を杖について、よたよたと出てゆく。おきん、胸を撫で下しながら、後を見送っている。兄弟三人、奥の問から出て母親の後へ、そっと忍んでくる)
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甚吉 おっ母! 
おきん おおびっくりした。
甚三 うまくやったなあ、おっ母。
おきん ははははは。
甚吉 ほんまにうまくやったの。あの不具者が、竹槍をついて、ちんば引き引きついて行くのを考えると、吹き出したくなるのう。
おきん あはははは。あの不具者も、二十九になるまで養うてやった甲斐があったのう。思わん役に立ったわ。この一揆で御年貢は御免になるわ。米もやすくなるわ。わちとら親子は高処《たかみ》から一揆を見物しているわ
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