長男じゃけにな、みんなわれの物じゃいうて。
甚吉 (激しくこづき回しながら)不具者《かたわもの》のくせに何いうだ。爺さんが、生きていたときに、庄屋様に願うて家屋敷とも俺の物になっているのだ。われは牛小屋でくすぶってりゃいいんだ。不具者のくせに、出しゃばるなよ。(激しくこづき回す)
甚兵衛 (激怒し)おっ母と兄弟三人とで共謀しやがって、長男のわしの物をみんな取っているのだぞ。この家《うち》の縁の下の塵までわしの物じゃ。
甚吉 何を、阿呆くさいことをいいやがるんじゃ。
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(さらに激しく、こづき回す。甚兵衛、こづかれながら手を振り上げて、甚吉の顔を殴《う》つ)
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甚吉 おのれ、殴《ぶ》ちゃがったな。
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(二人激しく格闘す。甚兵衛も、絶えず圧迫されながら、抵抗をつづける。そこへ母と一緒に兄弟二人帰ってくる)
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甚三 吉兄い。どうしたんじゃ。
甚吉 (甚兵衛を押え
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