げい!
刑吏二 (声高く読み上げる)
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]弦打村百姓 甚兵衛
[#ここから3字下げ]
その方儀、去る十三日領内百姓一揆騒動いたし候|砌《みぎり》、右一揆に加担いたし、香東川堤において上役人松野八太夫に投石殺害いたし候始末、不[#レ]恐[#二]御領主を[#一]仕方、不届至極につき、磔申付くる者也。
[#地から1字上げ]同人母 きん
[#地から1字上げ]同人弟 甚吉
[#地から1字上げ]同じく 甚三
[#地から1字上げ]同じく 甚作
その方儀、甚兵衛身寄につき、獄門申付くる者也。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
刑吏の長 最後も近づいたほどに、何ぞ遺言があればきき届けてつかわすぞ。
おきん わしゃ、こななことで、打首になるのは不承知じゃ。なんぼ、お上のなされ方でもあんまりじゃ。あんまりじゃ。
刑吏 この期に及んで、未練を申すな。本人が白状に及びたる上は、縁につながる不幸と諦めておれ!
おきん 何おっしゃるんじゃ。こなな阿呆のいうこと、お取り上げになったりして、あんまりじゃ。きこえんわ。きこえんわ。お上のなされ方がきこえんわ。(甚兵衛に)この阿呆。
甚兵衛 (気がないように笑う)あはははは。
おきん 何がおかしいんじゃ、この阿呆め! 親兄弟をこななひどい目にあわして、この阿呆め!
甚兵衛 はははは。
おきん ええ、この不孝者めが!
刑吏一 騒がしい。控え!
おきん (恨めしそうに黙る)
刑吏の長 甚兵衛! その方はなんぞ遺言はないか。
甚兵衛 (微笑しながら)わしゃ、何もないだ。村の衆が、みんな欣んで下さるけに、わしゃうれしいだ。うれしいだ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから4字下げ]
(その時、村人の六、矢来の中へ駆け入る)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
村人六 お願いでございます。お願いでございます。
刑吏一 なんじゃ。何事じゃ。
村人六 お願いでございます。これを一つ甚兵衛どんに、食べさせて下さりませ。
(竹の皮包の握り飯を出す)
刑吏一 いかが、いたしましょう。
刑吏の長 苦しゅうない。甚兵衛に与えてつかわせ。
刑吏一 (甚兵衛に与えながら)村の衆の志しゃ。快く食べたがよい。
甚兵衛 (無邪気に欣ぶ)ほほう。これわしにくれるか。
刑吏の
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