て1字下げ]
村人八 甚兵衛どん。遅かったのう。
甚兵衛 (黙ってうなずく)……。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから4字下げ]
(甚作、甚兵衛に寄り添うて座ろうとする)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
村人七 甚作、わりゃ、何しに来ただ。
甚作 おっ母が、ついて行けいうけに。
村人七 何やって、おっ母がそんなことをいうんじゃ。今日の集りは、一揆について行ったものだけの集りじゃぞ。
甚作 じゃけどもな、おっ母が、兄やは少し足らんけにな、寄合の席へやこし、一人でやるのは、心元ないいうけにな。
村人七 えろう、勝手なこと、いいやがるやつじゃのう。そなな心もとない甚兵衛を、どうしてまた、一揆にやこし一人で出したんじゃ。あんまり、得手勝手なことをしていると天罰が恐ろしいぞと、おっ母にいってやれ。
甚作 (言葉もなく黙してしまう)……。
勘五郎 ほんまじゃ。おっ母にな、少しいってやれよ。あんまりひどいことをするとな、人間がゆるしても、神様が許さんていうてな。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから4字下げ]
(甚作は、顔を赧《あか》らめて、さしうつむいてしまう。甚兵衛はにこにこ笑っている)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
村人九 ああ、街道筋に提灯が見えるぞう。庄屋どんたちが、帰ったんじゃ。
村人十 おお見える。迎えに行こう。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから4字下げ]
(一座緊張して、待っている。やがて、迎えに行った村人が、悄然として帰って来る。それに続いて庄屋と名主とが銘々手錠を入れられ、郡奉行の役人たちに守られて、首をうなだれて帰って来る。一座仰天する)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
村人たち (口々に)どうしたんじゃ。どななおとがめでそなな目におうたんじゃ。
村年寄甲 茂兵衛様、一体これはどうしたんじゃ。
茂兵衛 子細はあとでお話しする。まず、おしずまり下さい。
村年寄甲 おおしずまるとも。皆静かにせ。村の一大事じゃけに、みんな静かにしてくれ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから4字下げ]
(村年寄たち、庄屋を庇うて、座敷へ上げ、郡奉行の役人たちを案内する。庄屋正面へ出る。村人たち、水を打ったように静かになる)
[#ここで字下げ終わり
前へ 次へ
全26ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング