円柱にからみついている蔓草を引き※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》った。礼拝堂《らいはいどう》の扉も調べたがみんな錠が掛《かか》っており、一枚の窓硝子も壊れていなかった。僧院の隅から隅までとり調べたが、猫の子一|疋《ぴき》も出なかった。けれどもただ一つ見つけたものがあった、レイモンドに撃たれて曲者が倒れた場所で、自動車の運転手がかぶるたいへん柔《やわら》かな皮帽子を拾った。その他には何一つ無かった。
 翌朝《よくちょう》六時に近所の警察署の警部が駆けつけてきてとり調べた。警部は早速本署へ宛て、犯人の皮帽子と短劒《たんけん》一|振《ふり》を発見したから、至急強盗[#「強盗」は底本では「盗強」]首領は捕まえる必要があると報告した。
 十時には検事と、判事と判事の書記と三人を乗せた馬車と、ルーアン新聞の若い記者とある新聞の青年記者を乗せた馬車と、都合二台の馬車がこの邸《やしき》へ着いた。
 この邸は昔アンブルメディの僧侶が住んでいた所であって、仏蘭西《フランス》大革命の戦争の時ひどく破壊されたのを、ジェーブル伯爵が買って手入《ていれ》をしてから二十年も経っている。建物は時
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