まま出ていった。アルベールという見張りをしていた下男は、レイモンドが僧院の本院について曲がるのを見た。そしてまもなくその姿が見えなくなった。五六分経っても彼女の姿が見えないのでアルベールは心配し出した。彼は曲者が倒れたところから目を放たぬようにしながら、梯子を伝って降りていった。そして大急ぎで曲者が最後に姿を見せた場所へ走った。彼はそこでちょうどビクトールを連れて曲者を探しているレイモンドと行き逢った。
「どうしました?」
「とても泥棒を捕まえることが出来ない。」とビクトールが答えた。「俺はちゃんと小門を閉めて鍵を掛けてしまったんだがなあ。」
「他に逃げ道はないのにおかしいなあ。」
「ええ、本当にそうよ。十分も経てばきっと泥棒を捕まえてよ。」とレイモンドもいった。
「この僧院から逃げ出せるはずはないんだから、きっとどこかの穴の隅っこに隠れているに相違ない。」とアルベールがいった。
 小銃の声を聞いて農夫の親子が駆けつけた。その農夫たちの家もやはり土塀の中にあったが、彼らも何人《なんびと》の姿も見なかった。それからみんなは叢という叢を掻き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]したり、
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