いっぱいであった。人々はみんなボートルレに驚き、どこででもボートルレを褒める言葉が交《かわ》された。
しかもまた一方判事の方では、ボートルレが話したことより一歩も先へ進まなかった。レイモンド嬢がボートルレと見間違えた男のことも、四枚の名画のその後の行方も、同じく暗《やみ》に包まれたままであった。僧院の中の捜索も判事は自分自身から毎日出掛けて探したが、どうしても分らなかった。
ある新聞記者がジャンソン中学へ行ってボートルレに逢って、なぜ探偵をつづけないのかと尋ねた。ボートルレは今ちょうど試験なのであった。彼は試験に落第するのは厭だといった。
「しかし強盗を捕まえるのはたいへんいいではありませんか。」と新聞記者はいった。
「それでは僕は六月六日の土曜日に行きましょう。」とボートルレは答えた。
六月六日!この日は新聞に一斉に書き出された。「ボートルレは六月六日ドイエップ行の急行に乗る。そしてアルセーヌ・ルパンは捕縛されるであろう。」と。
その日ボートルレは一人で汽車に乗った。毎日毎夜の勉強にくたびれて彼は眠ってしまった。ルーアンの見える頃にようやく目が覚めたが汽車の中はやはり彼一人で
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