翌日の新聞に次のようなことが発表された。「昨夜、外科医として有名なドラトル博士は夫人や令嬢と一緒に芝居を見に行ったが、その終《おわ》り頃に二人の従者を連れた一人の紳士が来て博士にいった。
「私は警察から参りましたが、ぜひ私と一緒においでが願いとうございます。急に先生にお願いすることが出来ましたのでお迎えに参りました。芝居が終ります頃にはきっと御帰りになれますから。」
 博士はその紳士を連れて劇場を出たが、芝居がお終いになっても帰ってこないので、夫人たちが心配して警察へ電話をかけると、それは全く誰か他の者のしたことで警察では知らないことだと分り、大騒ぎになった。」
 このことは、次の新聞でいよいよ不思議な事実となって現われた。
 朝九時になってドラトル博士は一台の自動車で帰ってきた。その自動車は全速力で行方を晦《くら》ましてしまった。博士の語るところによると、ある手術をしなければならない病人を診察するために連れていかれたということである。それはある田舎の宿屋の一室で、病人はたいへん悪かったそうである。そして博士は一万円のお礼を貰ったそうである。しかしそれ以上はどうしても話さなかっ
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