青年記者の顔を交《かわ》りばんこに見比べていたが、やがてその一人に近づいて、
「君は何という新聞社ですか、身分証明書を持っていますか。」
「ルーアン日報社です。」その記者は身分証明書を出して見せた。判事は次の記者に向って
「そして、君は?」
「僕ですか?」
「さよう、何という新聞社へ勤めているのですか?」
「そうですなあ、判事さん、僕は種々《いろいろ》な新聞に書いているんです……方々の新聞に……」
「身分証明書は?」
「持っていません。」
「すると君の姓名は、何か書類でもありますか?」
「書類なんて持っていません。」
「君は職業を証明すべき書類を持っていないのですね。」
「僕は職業ってありません。」
「すると、君は……」と判事は少し怒った声で叫んだ。「君は偽ってここへ入ってきて我々の調べることをすっかり聞いてしまって、その上姓名までいおうとしないんですね。」
「そうじゃないんです判事さん、だって僕が入ってきた時、あなたは何ともおっしゃらなかったでしょう。だから僕だって断らなかったのです。それにこの通り大勢来ているんですもの、犯人さえ来ているんですもの。」
 彼れは物静かに悠々と話してい
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