者の頭に乗って飛んでいった他の一個は偽物で、それが君の手にある。やあ!こいつは一杯喰わされたね。」
「馭者を捕まえろ!」と判事は呶鳴《どな》った。
「しかしその前に判事さん、もっと気をつけなければならないことがありますよ。まあこの紙切を読んで下さい。これは外套のポケットから出たものです。」
「外套というのは?」
「馭者の残していったものです。」
といいながら検事は四つ折にした紙を判事の前に出した。その紙切には鉛筆の走り書きがしてあった。
「もし首領《かしら》が死んだら、令嬢に仇《あだ》をするぞ。」
怪青年記者
この事件に一同は蒼くなった。
「伯爵」と判事は口を開いて「伯爵決して御心配なさらないで下さい。こんな脅迫《おどかし》があったって我々警察の方で十分警戒しているのですから、令嬢方も決して御心配は入りません。大丈夫です。それから今度は諸君《みなさん》のことですがね。」と判事は新聞記者に向って、「私は諸君《みなさん》方を信用して、この場に諸君《みなさん》たちがおられるのを黙っているのですが……」判事は何か思いついたらしくそのまま言葉を切ってしまって、二人の
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