る。この記者はまだ若い青年で、その顔色は少女のように薔薇色で、鼻下《びか》にはちび髯があった。しかしその眼は鋭利そうに光っていた。口元にはいつも微笑が浮かんでいた。
判事はなお疑い深い眼で彼を睨んでいた。二人の巡査が彼の前に進んだ。青年は愉快そうに、
「判事さん。あなたは僕を犯人の中の一人だとお思いになるんですね。しかしもし僕が本当に犯人の一人なら、さっきの馭者のように、とっくに逃げてしまったでしょう。考えてみても……」
「冗談もたいていにしたまえ!君の姓名は?」
「イジドール・ボートルレです。」
「職業は?」
「ジャンソン中学校の生徒です。」
判事は驚いたように眼を円くして、
「何、何だって?中学校の生徒……」
「ジャンソン中学です。ポンプ街[#「ポンプ街」は底本では「ボンプ街」]の……」
「おいこら、馬鹿なことをいうな!そんな戯《たわ》けたことをいってもしようがないじゃないか。」
「ですが判事さん、本当なのです。あ、この髯《ひげ》ですね。御安心下さい、これはつけ髯なのです。」
と、いいながらボートルレは鼻下につけていた髯をとって捨てると、その顔はいっそう若くいっそう薔薇色をして
前へ
次へ
全125ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング