くわしく調べた。調べる時二名の新聞記者も、農夫親子も、邸内《ていない》[#「邸内」は底本では「庭内」]の人々もその場にい合わせた。判事たちを乗せてきた馭者たちも来ていた。犯人はどうしても邸内から外へ逃げ出すわけはないということになった。その時判事はストーブの上にあった皮帽子をとり上げて、これを調べていたが、警部を呼んで小声で、
「おい、警部、君の部下をすぐバール町のメイグレ帽子店にやって調べさせてくれたまえ、この帽子を買った人間を覚えているだろうから。」
馭者の残した強迫状
踏みにじられた草の中に賊の通った跡が判然と分った。黒ずんだ血の塊が二個所ばかりで発見せられた。円柱の角を曲がるとそこは僧院の奥の方で、何事もないらしく、杉葉の散った土の上には身を引きずったような跡もなかった。そんなら傷ついた曲者はどうして令嬢やアルベールやヴィクトールの眼から逃れ去ったのだろうか?巡査や下男たちが藪《やぶ》を分けて探したり、五つ六つある墓石の下を探ったりしたがやっぱり何事もなかった。
判事は鍵を預《あずか》っている庭番に命じて礼拝堂の扉を開けさせた。その礼拝堂というの
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