ですか? いやあれは実に立派な人間です。二十年この方私の宅にいて正直な男でした。」
「そうするとやはり盗むつもりで忍び込んだのですね。」
「そうです。泥棒です。」
「すると何か盗まれましたか。」
「いえ、何も。しかし私の娘と姪が、二人の曲者が邸園《ていえん》を逃げる時、大きな包《つつみ》を持っているのをたしかに見たのですから。」
「では二人のお嬢さんにお聞きしましょう。」
令嬢二人は客間に呼ばれた。シュザンヌはまだ顔色も蒼ざめていたが、レイモンドは元気であった。彼女は昨夜自分のしたことを種々《いろいろ》と話した。
「邸園を横切った二人の男は、たしかに大きな包を下げていました。」
「では三番目の男は?」
「何も持っていませんでした。」
「どんな男でしたか?」
「何しろ懐中電灯の光で眼がくらんでいてよく分りませんでしたが、肥って背《せい》の高い男のようでした。」
「あなたにもそう見えましたか?お嬢さん。」と判事はシュザンヌに尋ねた。
「はい……いいえ、あの、」とシュザンヌは考えながら「私には中背で痩せすぎであったように思います。」
判事はなおも犯人の逃げた道筋について、下男たちも呼んで
前へ
次へ
全125ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング