こで拾い上げたのです。」と伯爵はいった。
判事は室内をなお十分調べてから、伯爵に向《むか》って伯爵が見たことや知っていることを尋ねた。
「私はドバルに起《おこ》されたのです。ドバルは手燭《てあかり》を持って、ごらんのように昼間の仕度のままで私の寝台の傍《かたわら》に立っていたんです。もっともドバルは時々|夜更《よふか》しをする癖があったのですがね。ドバルはたいへん気が立っている様子で、小声で「客間に誰か来ている。」というじゃありませんか。なるほど私にも音が聞える。すぐ床から起きてそっとこの廊下《ろうか》[#「廊下」は底本では「廓下」]の戸を開けると、その時あの大広間の境になっている戸がさっと開いて一人の男が現われ、そいつが私に飛びつくや否や、いきなり私の眉間を殴りつけたので私はそのまま気絶してしまったのです。それですから私はその他のことは何にも知らないのです。初めて気がついてみるとドバルがこの通り殺されて倒れていました。」
「あなたはその男を御存知ですか?」
「いいえ、少しも見覚えがありません。」
「ドバルは人に恨まれているようなことはありませんか。」
「ドバルですか、仇敵《かたき》
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