いましょう。」
「それ、その机の上です。」
ボートルレは飛び上った。あるある!小さな本が卓子《テーブル》の上にある。
「ああ、ありましたね。」と博士も叫ぶ。
二人は一生懸命に読み始めた。暗号の解き方が書いてある。しかし途中で何だか分らなくなってしまった。暗号の解き方ならボートルレがもはや考えたことである。
少年はどうすればいいか分らなくなった。
「どうしたんです!」と博士は聞いた。
「分らなくなりました。」
「なるほど、分らない。」
「畜生、しまった!」といきなりボートルレが呶鳴った。
「どうしたんです!」
「破ってある!途中の二|頁《ページ》だけ破ってある、ごらんなさい。跡がある……」
少年はがっかりしてしまった。そして口惜しさにその身体はわなわなと慄えている。
誰か忍び込んでこの本を探し、その大事な二|頁《ページ》だけを※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》り取ったものである。男爵も博士も驚いてしまった。
「娘が知っているかもしれません。」といって男爵は令嬢を呼んだ。令嬢は不幸《ふしあわせ》な人で夫が亡くなったので一人の子供を連れて、父親である男爵の邸へ来ているのである。
夫人は昨晩その本を読んだのであった。が、その時は裂かれているところなどはなかったということである。それでは裂かれたのは今日である。邸の中は大騒ぎとなった。しかしその二|頁《ページ》の行方は分らない。ボートルレはあきらめた。少年は夫人に尋ねた。
「あなたは、この本をお読みになったのなら、裂かれた二|頁《ページ》もお存じでいらっしゃいましょう。」
「ええ。」
「ではどうぞ、その二|頁《ページ》のところを私にお話し下さい。」
「え、よろしゅうございます。その二|頁《ページ》はたいへん面白いと思って読みました。それは本当に珍しいことで……」
「それです。それが一番大切なことです。エイギュイユ・クリューズは何でしょう。早くどうぞお話し下さい。」
「思ったよりも簡単なことです。それは……」
夫人が話し出そうとする時、一人の下男が手紙を持ってきた。夫人は怪しみながらそれを開くと、
「黙れ!そうでないとあなたの子供は起《た》つことが出来なくなるだろう。」
「ああ、子供は……子供は……」と夫人は驚きの余り、ただそういうだけで子供を助けに行くことも出来ない。
「嚇《おどか》されてはい
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