いる。少年は静かに父を呼んだ。
「お父様……、お父……僕です、ボートルレです。早く起きて下さい、静かに静かに……」
父は急いで着物を着て、部屋を出ようとする時、低い声で囁いた。
「この城の中に閉じ込められているのは私ばかりではない……」
「ああ、誰?ガニマール?ショルムス?」
「いいえ、そんな人は見たことがない。若い令嬢だ、」
「ああ、レイモンド嬢です、きっと。どの部屋にいらっしゃるか知っていますか。」
「この廊下の右側の三番目。」
「青い部屋です。」とバルメラ男爵がいった。
すぐに扉を破り、レイモンド嬢は救い出された。
みんなは元の小門へ出て、学生たちの張番《はりばん》しているのと一緒になり、無事に古城から逃れ出ることが出来た。
ボートルレは宿へ着くと、種々《いろいろ》とルパンのことを父や令嬢に尋ねた。その話によると、ルパンは三四日目ごとに来て、父と令嬢の部屋を必ず訪ねた。その時のルパンは優しく叮嚀であった。ボートルレとバルメラ男爵が城へ忍び込んだ時には、ちょうどルパンはいなかった[#「いなかった」は底本では「いかなった」]。
ボートルレは早速警察へ古城のことを報告した。警察からはたくさんの警官が古城へ向った。ボートルレとバルメラ男爵はその案内役になった。
遅かった!正門は真一文字に開かれて、城の中に残っているものはいくつかの台所道具ぐらいであった。
ああ、ボートルレ少年はとうとう勝った。レイモンド嬢は救い出され、ボートルレの父もまた救い出された。しかもエイギュイユ(針)の秘密は明らかになった。
一少年はとうとうルパンに勝った。巨人ルパンもボートルレ少年には兜をぬがなければならなかった。ボートルレは父とレイモンド嬢を連れて、ジェーブル伯とシュザンヌ嬢とがいる別荘へ出掛けた。二三日経つとバルメラ男爵が母を連れて遊びに来た。こうして心から親しみ合っている人々が、平和な日をその別荘に送った。
戦勝の祝
十月の初めにボートルレはまた学校へ帰って勉強を始めた。
こうしてもう何事もなくこのまま静かにすごされるであろうか?ルパンとの闘いはもうこれでお終いになったのであろうか?
ルパンはもうあきらめてしまったものか、自分が誘拐した二人の探偵、ガニマールとショルムスをまた送り返してきた。それはある朝であった。二人の名探偵は手足を縛ら
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