るんですよ。」
「え! 本当かね、それは。」
「そうです。そいつを見つけるのはあなたの役です。しかし僕は思ったより以上に調べを進めました。それで奴らも本気になって仕事をし出したらしいのです。僕のまわりにも危険が迫ってきました。」
「そんな……ボートルレ君。」
「いえ、とにかくそれよりも先に、あのいつか血染の襟巻と一緒に拾った紙切のことですが、あのことは誰にも話してはいらっしゃらないでしょうね。」
「いや、誰にも、しかしあんな紙切が何か役に立つのですか?」
「え、大いに大切なのです。僕はあれに書いてあった暗号の謎を少し解くことが出来ました。それについて申し上げますが。」
と、いいかけたボートルレは、ふいにその手で判事の手を押えて聞き耳を立てた。
「誰か立ち聞きをしている。」砂利を踏む音に少年は窓に走った。しかし誰もいない。
「ねえ、判事さん、敵はもうこそこそ仕事をしてはいません。大急ぎで申し上げましょう。」
少年は紙切を卓《テーブル》の上において説明を始めた。ボートルレはこの間からこの紙切について一生懸命考えていたのであった。そして少年はやっとその数字がア・エ、イ・オ、ウ、の字を表《あら》わしていることを考えついた。つまり数字の1は、最初のア、を差し、2は次のエを指しているのであった。それを頼りに、点のところへ、言葉になりそうな字を入れていった。その結果少年は、第二行から(令嬢《ド・モアゼル》)という言葉を拾うことが出来た。
「なるほど、二人の令嬢のことだね」と判事はいった。少年はまたその他に、(|空に《クリューズ》)という言葉と(針《エイギュイユ》)という言葉を見つけた。
「空《うつろ》の針、それは何だろう。」と判事がいった。
「それは僕にもまだ分りません。しかしこの紙切の紙はずっと昔のものらしいのですが、それが不思議です。」
この時ボートルレはふと黙った。判事の書記が入ってきたのであった。書記は検事総長が到着したと告げた。判事は不思議な顔をした。
「何だろう、おかしいな。」
「ちょっと、下までおいで下さいといって、馬車をまだお降りになりません。」
判事は首をかたむけながら降りていった。この時怪しの書記は室《へや》の中から戸を閉じて鍵を掛けた。
美少年の重傷
「あ!なぜ戸を閉めるんです!」とボートルレは叫んだ。
「こうすれば話がしい
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