取り消していると噂された。が、二人は道で会えば、会釈もした。同席の場合には、言葉も交した。しかし甚兵衛は、一時の勝利の効果を長く保存しようとする惣八郎を、かなり含んでいて、いつかは目に物見せようと心掛けていた。その相手から、彼は意外にも恩を着たのである。
 彼は、強い衝動のために起った頭の痛みを感じながら、惣八郎によって、無意識のうちに着せられた恩を悔んだ。
「惣八郎どのが、甚兵衛の持て余した敵を打ち取った。甚兵衛は、日頃大口を叩くが、戦場では殊のほか手に合わぬ男じゃ」という噂が陣中に伝わったらどうしようかと考えた。その上、自分の嫌な男を一生の命の恩人として持っていることは、いかに不快であるかを考えた。
 彼は力なく立ち上って、陣へ退く途中でいろいろと頭を悩ました。そして、とうとうこの不快を取り除く第一の手段は、早く恩返しをすることだと考え付いた。惣八郎の危難を助けてやればよい、彼の受けただけの恩を返してやればよいと思った。その上、今は戦場である。そんな機会が、幾度も来るに違いないと思った。すると、余り屈託をした自分がばからしくなってきた。彼は元気をかなり取り返すことができた。
 陣中
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