はり細川勢の魁《さきがけ》であった。いつも必ず魁をする甚兵衛が、惣八郎に位置を譲ったからである。
戦いは激しかった。宗徒どもは「さんた、まりや」と口々に叫びながら、刀槍、弓矢をはじめ、鍬、鎌などをさえ手にして戦った。三の丸が落ちてから、城方の敗勢はもはやどうともすることができなかった。素肌の老幼などは、一撃の下に倒された。彼らは倒れると、倒れたままに、十字を切って従容《しょうよう》と神の国へ急いだ。
惣八郎は手に立ちそうな相手を選んでは、薙《な》ぎ倒した。甚兵衛は、朝来《ちょうらい》惣八郎の手柄を見て歩いた。時々は、彼もまた自ら戦いたい欲望に駆られて手を下したが、こうして大事な機会が過ぎ去るのが惜しまれたので、敵を巧みに避けては、惣八郎の後を追った。
午《うま》の刻を過ぎた。諸方から焼き立てられた火の手は、とうとう本丸に達した。原城の最後の時が来た。城楼《じょうろう》の焼け落つる音に交って、死んで行く切支丹宗徒の最後の祈祷や悲鳴が聞えた。
そこには、血と炎との大いなる渦巻があった。流石《さすが》の甚兵衛も惣八郎を見失ってしまった。夕闇の迫って来るに従って、ますます丹《に》の色に
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