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藤作 旦那さん、これがさっきいうた巫女さんや。
義助 やあ今日は、ようおいで下されました。どうも困ったやつでござんしてな、あなた、まったく親兄弟の恥さらしでな。
巫女 (無造作に)なにあなた様、心配せんかって私が神さんの御威徳ですぐ治してあげますわ。(義太郎の方を向きながら)この御方でござんすか。
義助 左様でござんす。もう二十四になりますのにな、高い所へ上るほかは何一つようしませんのや。
巫女 いつからこんな御病気でござんしたかな。
義助 もう生れついてのことでござんしてな。小さい時から高い所へ上りたがって、四つ五つの頃には床の間へ上る、御仏壇へ上る、棚の上に上る、七つ八つになると木登りを覚える、十五、六になると山のてっぺんへ上って一日降りて来ませんのや。それで天狗様やとか神様やとかそんなもんと話しているような独り言を絶えずいうとりますのや。一体どうしたわけでござんしょうな。
巫女 やっぱり狐が憑いとるのに違いござんせん。どれ私が御祈祷をして上げます。
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(義太郎の方へ歩みよって)よくおききなさい! 私は当国の金比羅大権現様《こんぴらだいごんげんさま》
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