所へでも上るんやけにな。梯子《はしご》乗りの上手な作《さく》でも、若旦那にはかなわんいいよりますわい。
義助 (苦笑して)阿呆なことをいうない。屋根へばかり上っとる息子を持った親になってみい。およしでも俺でも始終あいつのことを苦にしとんや。(再び声を張り上げて)義太郎! 早う降りて来んかい。義太郎! 降りんかい。……屋根へ上っとると人の声はきこえんのや、まるで夢中になっとるんや。あいつが上って困るんで、家の木はみんな伐ってしまったけんど、屋根ばかりはどうすることもできんわい。
吉治 私の小さい頃には、御門の前に高い公孫樹《いちょう》がござんしたなあ。
義助 うむ、あの木かい。あれは島中の目印になった木やがな。いつであったか、あの木のてっぺんへ義太郎が上ってな、十四、五間もある上でぱかんと枝の上に腰かけているやないか。俺もおよしもあいつの命はないもんやと思ってあきらめていると、またするする降りて来てな、皆あきれてものがいえなかったんや。
吉治 ヘへえ。まるで人間|業《わざ》でござんせんな。
義助 だから俺あ猿が憑《つ》いとると思うんや。(声をあげて)義やあ、降りんかい。(ふと、気を変えて
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