る者がさせておるんやけに。
義助 屋根のぐるりに忍び返しをつけたらどうやろうな、どうしても上れんように。
吉治 どななことしても若旦那には効き目がありゃしません。本伝寺《ほんでんじ》の大屋根へ足場なしに上るんやもの、こなな低い屋根やこしはお茶の子や。憑《つ》いとる者が上らせるんやけに、どうしたって効きゃせん。
義助 そうやろうかな。あいつには往生するわい。気違いでも家の中にじっとしとるんならええけれど、高い所へばっかし上りゃがって、まるで自分の気違いを広告しとるようなもんや。勝島の天狗《てんぐ》気違いというたら、高松へまで噂がきこえとるいうて末がいいよって。
吉治 島の人は狐がとり憑《つ》いとるいうけれど、俺は合点《がてん》がいかんがなあ。狐が木登りするということはきいたことがないけになあ。
義助 俺もそう思うとんや。俺の心当りは別にあるんや。義の生れる時にな、俺はその時珍しい舶来の元込銃《もとごめじゅう》でな、この島の猿を片っ端しから撃ち殺したんや。その猿が憑いとるんや。
吉治 そうやろうな。それでなけりゃ、あなに木登りのおたっしゃなわけはないからな。足場があろうがあるまいが、どなな
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