四人、義太郎を見て微笑を交う)
[#ここで字下げ終わり]
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末次郎 普通の人やったら、燻《くす》べられたらどなに怒るかも知れんけど、兄さんは忘れとる、兄さん!
義太郎 (狂人の心にも弟に対して特別の愛情があるごとく)末やあ! 金比羅さんにきいたら、あなな女子知らんいうとったぞ。
末次郎 (微笑して)そうやろう、あなな巫女よりも兄さんの方に、神さんが乗り移っとんや。(雲を放れて金色の夕日が屋根へ一面に射しかかる)ええ夕日やな。
義太郎 (金色の夕日の中に義太郎の顔はある輝きを持っている)末、見いや、向うの雲の中に金色の御殿が見えるやろ。ほらちょっと見い! 奇麗やなあ。
末次郎 (やや不狂人の悲哀を感ずるごとく)ああ見える。ええなあ。
義太郎 (歓喜の状態で)ほら! 御殿の中から、俺の大好きな笛の音がきこえて来るぜ! ええ音色やなあ。
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(父母は母屋の中にはいってしまって、狂せる兄は屋上に、賢き弟は地上に、共に金色の夕日を見つめている)
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]――幕――



底本:「菊池寛 短篇と戯
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