。
巫女 (荘厳に)この家の長男には鷹の城山の狐が憑いている。木の枝に吊しておいて青松葉で燻《くす》べてやれ。わしの申すこと違《たが》うにおいては神罰立ち所に至るぞ。(巫女ふたたび昏倒する)
皆 へへっ。
巫女 (再び立ち上りながら空とぼけたように)なんぞ神さまがおっしゃりましたか。
義助 どうもあらたかなことでござんした。
巫女 神様のおっしゃったことは、早速なさらんとかえってお罰が当りますけに、念のために申しておきますぞ。
義助 (やや当惑して)吉治! それなら青松葉を切って来んかな。
およし なんぼ神さんのおっしゃることじゃいうて、そななむごいことができるもんかいな。
巫女 燻《くす》べられて苦しむのは憑いとる狐や。本人はなんの苦痛もござんせんな。さあ早く用意なさい。(義太郎の方を向いて)神様のお声をきいたか。苦しまぬ前に立ち去るがええぞ。
義太郎 金比羅さんの声はあなな声ではないわい。お前のような女子《おなご》を、神さんが相手にするもんけ。
巫女 (自尊心を傷つけられて)今に苦しめてやるから待っておれ。土狐の分際で神様に悪口を申しおるにくいやつじゃ。
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