い。早う降りて来いよ。お日さんにかんかん照り付けられて、暑気するがなあ。さあ、すぐ降りて来い。降りて来んと下から竿でつつくぞう。
義太郎 (駄々をこねるように)厭やあ、面白いことがありよるんやもの。金比羅《こんぴら》さんの天狗《てんぐ》さんの正念坊《しょうねんぼう》さんが雲の中で踊っとる。緋《ひ》の衣を着て天人様と一緒に踊りよる。わしに来い来いいうんや。
義助 阿呆なこというない。お前にとりついとる狐が誑《だま》しよるんやがなあ。降りんかい。
義太郎 (狂人らしい欣びに溢れて)面白うやりよるわい。わしも行きたいなあ。待っといで、わしも行くけになあ。
義助 そななことをいうとると、またいつかのように落ち崩《くじ》るぞ。気違いの上にまた片輪にまでなりゃがって、親に迷惑ばっかしかけやがる。降りんかい阿呆め。
吉治 旦那さん、そんなに怒ったって、相手が若旦那やもの効くもんですか。それよりか、若旦那の好きなあぶらげを買うて来ましょうか。あれを見せたらすぐ降りるけに。
義助 それより竿で突ついてやれ、かまやせんわい。
吉治 そななむごいことができるもんな。若旦那は何も知らんのや。皆|憑《つ》いている者がさせておるんやけに。
義助 屋根のぐるりに忍び返しをつけたらどうやろうな、どうしても上れんように。
吉治 どななことしても若旦那には効き目がありゃしません。本伝寺《ほんでんじ》の大屋根へ足場なしに上るんやもの、こなな低い屋根やこしはお茶の子や。憑《つ》いとる者が上らせるんやけに、どうしたって効きゃせん。
義助 そうやろうかな。あいつには往生するわい。気違いでも家の中にじっとしとるんならええけれど、高い所へばっかし上りゃがって、まるで自分の気違いを広告しとるようなもんや。勝島の天狗《てんぐ》気違いというたら、高松へまで噂がきこえとるいうて末がいいよって。
吉治 島の人は狐がとり憑《つ》いとるいうけれど、俺は合点《がてん》がいかんがなあ。狐が木登りするということはきいたことがないけになあ。
義助 俺もそう思うとんや。俺の心当りは別にあるんや。義の生れる時にな、俺はその時珍しい舶来の元込銃《もとごめじゅう》でな、この島の猿を片っ端しから撃ち殺したんや。その猿が憑いとるんや。
吉治 そうやろうな。それでなけりゃ、あなに木登りのおたっしゃなわけはないからな。足場があろうがあるまいが、どなな
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