権力平均を保てば足りるのである。
 これには、勝元も宗全も異議は無かった。独り悦《よろこ》ばぬのは赤松政則であって、それは休戦になればその拡張した領土を山名氏に還さねばならないからである。政則は勝元とは姻戚の間であり、東軍に在っては其の枢軸である。勝元は彼を排してまで和するの勇気もなく、此の話は中絶した。
 此の後、勝元は髻《もとどり》を切ろうと云い出し、宗全は切腹をすると言って居る。思うに共に戦意無きを示して、政則を牽制せんと計ったのでもあろう。同時に彼等は此の大乱の道徳的責任を感じて居るらしいのである。多くの神社仏閣を焼き、宸襟《しんきん》を悩まし奉る事多く、此の乱の波及する所は全く予想外である。つまり、二人ともこんな積りでなかったとばかりに空恐しくなったのであろう。殊に勝元など、宗全と異って、少しでも文化的な教養があるのだから、此の乱の赴く所随分眼を掩《おお》い度い様な気分に襲われたんではないかと思う。宗全にしてもそうだが、共に中世的な無常感が相当骨身にこたえたに違いない。只勝元は薙髪すると云い、宗全は切腹すると云う所に、二人の性格なり、ものの感じ方なんかがはっきり現れて居て面白
前へ 次へ
全19ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング