で、いま神様がこらしめて下すったのだ。わしは神様におすがりして、あの子に償いをせねばならぬ。罪ほろぼしをせねばならぬ。」
アロアはうれしさのあまり、父親に接吻《キス》して、大きな膝からすべり落ちるか早いか、扉《ドア》の方ばかり、見守っている犬の許にかけて行って、
「今夜、パトラッシュに御馳走してやってもいいの。」とさもうれしそうに叫びました。
「いいとも、いいとも。うんと御馳走しておやり。」とコゼツは言いました。この老いた頑固なおやじさんも、全く心の底から改心してしまったのでした。
その夜はクリスマスの前夜ですから、大きな粉挽場の中は、目のさめるように美しくかざり立てられていました。吊された線の枝々《えだえだ》。うめもどきの赤い実がたくさんなっている枝の間から、十字架像と、時鳥《ほととぎす》の形をした置時計がのぞいています。アロアをよろこばせるための、紙でこしらえた提灯には灯《ともしび》がつき、いろいろなおもちゃや、目のさめるような絵紙につつんだおいしいお菓子が一ぱい並んでいます。このクリスマスのかざりをした明るいたのしい、そして食物《たべもの》のたくさんある部屋で、パトラッシュを
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