る家は、ほんの三、四軒に減ってしまい、そのために、パトラッシュが曳かねばならぬ車の荷は軽くなったものの、ネルロの財布に入る端金《はしたがね》はいよいよわずかになってしまったのでした。
 犬は、いつも止る家の前には、ちゃんと車を止めますが、その門は、もはや彼等のためには開かれませんでした。あわれみを乞うようにじっと見上げる犬の眼は、見る人の胸を打ちましたがみんなむりに目をつぶって心を鬼にして閉め出すのでした。パトラッシュは、力なく空車《あきぐるま》をひいて行きます。誰だって、人情のないものはありませんが、コゼツの旦那の気にさわるのをおそれたからでした。
 いよいよクリスマスは近づいて来ました。寒さは一そうきびしくなり、雪は六尺も積もり、氷は、牛や人間が、どこをふんでも大丈夫な程厚くなりました。この季節が、このあたりでは一番たのしい時なのです。どんな貧乏な家にも、あたたかなおいしい御馳走やお菓子が用意され、ストーヴの上には、スープ鍋が、さもうまそうに湯気を立てていて、部屋は色美しくかざられて、たのしげな笑声《わらいごえ》がもれるのでした。馬という馬はみんな鈴をつけられ、その音が、いたるとこ
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