して下すったんですもの。」こう無邪気に言って、そして少年は犬を呼び、畑を横切ってさっさとそこを立ち去りました。
「あの銀貨をもらっていたら、あれ[#「あれ」に傍点]がみられたんだが、でも僕はあの絵を売ることはできない。たとえあれ[#「あれ」に傍点]が見られるにしても。」と、少年は犬に向ってつぶやくのでした。その夜コゼツは、
「あの子供をあまりアロアと遊ばせちゃいかんね。あとできっと心配事が起って来るよ、あの子供は今年十五だし、娘は十二だ。それにあの子は、ちょっとした顔つきでもあるし。」とおかみさんにはなしかけました。おかみさんは、ストーヴの上におかれたさっきの絵につくづく見入りながら、
「それにまじめな子で、一本気のようでもございますしね。」と言いました。
「そこじゃて。それをわしはおもうのじゃ。」と、コゼツはたばこをつめながら言いました。
「ほんとにそうでございますね。あなたのお考えどおりになります。」とおかみさんは口ごもりながら、
「大そう結構のように思われますわ、娘だってこの財産をつぎますればふたりの一生は安楽ですし、それに越した二人の幸福《しあわせ》はありませんわ。」
「だから
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