、ネルロとパトラッシュがいそいそと畑の木戸をくぐり、やがて、その姿が遠くへ消えてしまうまで見送り、とろとろっと居ねむって、短い夢さえみる。やがて目をさまして、お祈りをしたり、畑のものなど見廻ったりする、そうこうするうちに時計が三時を打つと、おもてへ出て、ネルロたちを待ち受けるのでした。うちへ近づくと、パトラッシュはうれしそうに一声高く吠えます。そして梶棒をはずしてもらって、ゆっくりとくつろぐのです。ネルロはその日の賃銀を得意そうに計算し、やがて、みんなそろってライ麦のパンに、牛乳やちょっとしたスープをそえて食べるのでした。
 目をあげれば、野は、次第々々に暮れて行き、宵闇が、遥かな旧教寺院の尖った塔をぼかし初めるのです。それから、おじいさんにお祈りをしてもらって、みんな安らかなねむりにつくのでした。こう言うたのしい暮しが、幾日とつづき、幾年とつづきました。そして、ネルロとパトラッシュの生活は、相変らず幸福で平和でした。

 春と夏とは、ネルロたちにとって、一番たのしい時でした。一体フランダースというところは見渡す限りどこまでも牧場や田畑がつらなっているだけで、変化に乏しい、あまり面白《
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