フランダースの犬
A DOG OF FLANDERS
マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメー Marie Louise de la Ramee
菊池寛訳
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)年数《としかず》から言ったら
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)中には六千|法《フラン》という
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)飢※[#「渇」の「さんずい」に代えて「しょくへん」、第4水準2−92−63]《きかつ》
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ネルロとパトラッシュ――この二人はさびしい身の上同志でした。
ふたりともこの世に頼るものなく取り残されたひとりぼっち同志ですから、その仲のいいことは言うまでもありません。いや、「仲がいい」くらいな言葉では言いあらわせません。兄弟でもこれほど愛し合っている者はまずないでしょう。ほんとにこれ以上の親しさはかんがえられないほどの間柄でした。しかも、ふたり、と言っても人間同志ではないのです。ネルロは、フランスとベルギーの境を流れるムーズ河の畔の田舎町アンデルスに生れた少年。パトラッシュは、フランダース産の大きな犬なのです。このふたりは、年数《としかず》から言ったら、いわゆるおなじ年ですが、一方はまだあどけない子供ですのに、一方はすでに老犬の部類に入っています。ふたりが友達になったそもそものはじまりは、お互いに同情し合ったのがもとで、日を経《ふ》るにしたがって、その気持はますます深まり、今ではもう切っても切れない親しさにむすびついてしまいました。
村はずれの小さな小舎《こや》、それがふたりの家でした。
この村というのは、ベルギーの首府アントワープから一里半ばかり離れたフランダースの一村落で、まわりには麦畑や牧場が広々とつらなっていて、その平野を貫ぬく大きな運河の岸には、ポプラや赤揚樹《はんのき》の長い並木が、そよそよ吹く微風《そよかぜ》にさえ枝をゆすぶっていました。村には家屋敷がおよそ二十ばかり、その鎧戸は、みんな明るい緑色か、青空そのままの色に塗られ、屋根は、多くは紅《あか》い薔薇《バラ》色、または黒と白のまだらに塗られていました。壁は雪のように真白で、太陽[#「太陽」は底本では「大陽」]に輝いている時は目がいたく
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