しまいました。王様の家《うち》で自分を豚同様に扱っているのです。かれはイワンに言いました。
「誰もかも手を使って働かなきゃならないなんて、お前の国でももっとも馬鹿気《ばかげ》た律法《おきて》だ。こんなことを考えるのも言わばお前が馬鹿だからだ。賢い人は何で働くか知っているか?」
 するとイワンは言いました。
「わしらのような馬鹿にどうしてそんなことがわかるもんか。わしらは大抵の仕事は手や背中を使ってやるんだ。」
「だから馬鹿と言うんだ。ところがおれは頭で働く方法を一つ教えてやろう。そうすりゃ手で働くより頭を使った方がどんなに得だかわかるだろう。」
 イワンはびっくりしました。そして、
「そうだとすりゃ、なるほど私らを馬鹿だと言うのももっともだ。」
と言いました。
 そこで年よった悪魔は言葉をつづけて、
「しかしただ頭で働くのはよういじゃない。おれの手に硬いところがないと言ってお前たちはおれに食物《たべもの》をあてがわないが、頭で働くことはそれよりも百倍もむずかしいと言うことをちっとも知らない。時としちゃ、全く頭がさけてしまうこともある。」
 イワンは深く考え込みまし[#「し」は底本では「
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