た。
 そのうちに番が来て、イワンの家《うち》へ行くことになったので年よった悪魔は御馳走になりにやって来ました。すると、れいの唖の娘が食事の仕度をしているところでした。
 唖娘は今までに、たびたびなまけ者にだまされていました。そんな者に限って、ろくすっぽ受持の仕事はしないで、誰よりも食事に早くやって来て、おまけに人の分まで平げてしまうのでした。そこで娘は手を見て、なまけ者を見分けることにしました。ごつごつした硬い手の人はすぐテイブルにつかせましたが、そうでない人は、食べ残しのものしかくれてやりませんでした。
 年よった悪魔はテイブルにつきました。すると唖娘は、早速その手を捉えて、調べにかかりました。ところが手にはちっとも硬いところがありません。すべすべしていて、爪が長く延びていました。唖娘は唸りながら、悪魔をテイブルから引きはなしました。するとイワンのおよめさんが言いました。
「悪く思わないで下さい。あれはごつごつした手を持った人でないと、テイブルにはつかせないんです。でもちょっとお待ちなさい。みんなが食べてしまったら、後でその残りをあげますから。」
 年よった悪魔はひどく気を悪くして
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