ろうかと、待っていました。
それから、みんなは、うんとやしの木のそばへ近づきました。その時、私は、木の枝に、猿《さる》がたくさんのぼっているのに、気がつきました。そして、その猿は、私たちを見つけるが早いか、ぐんぐん上の方へのぼってゆきました。すると、みんなは一せいに、この猿に向って、石を拾っては投げ、拾っては投げはじめました。
私は、ずいぶんひどいことをすると思いました。それで、
「どうして、そんなことをするんです。猿は何にも、悪いことなんか、しやしないじゃありませんか。」と、聞きました。
しかし、すぐに、そのわけがわかりました。猿が、やしの実をもいで、どんどん、こちらへ投げはじめましたから。
私たちは、大いそぎで、そのやしの実を拾って、袋へ入れました。それから、またまた石を投げました。すると、猿も、ますます、やしの実を投げてよこしました。
みんなの袋がいっぱいになってから、町へ帰りました。そして商人に売りました。
私は、それからまもなく、バクダッドへ帰って来ました。帰りみち、方々の島へよって、はっかだの、きゃらの木だの、真珠《しんじゅ》だのを買いあつめました。
そして、家へ帰ってから、それらの品々を売りました。すると、どうして使っていいかわからないほど、たくさんのお金が、手に入りました。
ここで、シンドバッドは、ごちそうを持って来るようにと、言いつけました。そして、ヒンドバッドが家へ帰る前に、また百円やるようにとも言いました。召使はその通りにしました。
次の夜、たくさんのお客さまと、荷かつぎのヒンドバッドとが、いつものところへ腰をかけた時、シンドバッドは、六度めの航海の話をはじめました。
六|度《ど》めの航海《こうかい》の話《はなし》
こんどは、まる一年家にいました。その間、また航海に出るしたくをしていました。友達《ともだち》や、しんるいの者たちは、行かせまいとして、いろんなことを言って、引きとめにかかりましたが、私はどうしても、しょうちしませんでした。
まもなく、こんどは、うんと長い航海をするつもりで、出かけました。
けれども、この航海は、はじめから、つごうよくゆきませんでした。すぐに、ひどい大あらしにあって、風のまにまに、あちらこちらと流されたあげく、とうとう、船長も、水先《みずさき》案内も、どこをどう走っているのか、だんだん、たよりなくなってゆくばかりでした。
すると、ある時のこと、にわかに船長が、ずきんをぬぎ捨てたかと思うと、ぐんぐんかみの毛を引きむしって、気ちがいのようになってしまいました。
みんなは、びっくりして、ばらばらっと、船長のそばへかけよって行きました。
「どうしたんです、どうしたんです。気をしっかり持ってください。」と、てんでに言いました。
すると船長は、
「もうだめです、もうだめです。船は、あぶない潮《しお》の流れの中へ入ってしまいました。もう二三分したら、何もかも、みじんにくだけてしまうでしょう。」と、言ったのでした。
全くでした。船長の言葉が終るか終らないうちに、船は、きみわるく、すうーっと走り出したかと思うと、見る見る、けわしい山のすその、岩の折れかさなった海岸へ、どんとつきあたってしまいました。そして、粉《こな》みじんになってしまいました。
けれども、みんな、ふしぎに助かりまして、つんでいた荷物と、少しばかりの食べ物と一しょに、岩の上へ打ち上げられたのです。
海岸には、難破船《なんぱせん》のかけらと、まっ白になった骨とが、たくさんちらばっていました。
船長は悲しげに、
「さあ、皆さん。死ぬ用意をしましょう。今までに、この海岸に打ち上げられて、助かった人はないのです。ごらんの通り、後はとてものぼることのできない山ですし、また、助け船が来ることのできるところでもありませんから。」と、言いました。
しかし、そうは言っても、食べ物をみんなに分けてくれました。ともかくも、生きていられるかぎりは、生きていた方がいいと思ったからでした。
さて、この島で私がおどろいたことは、大へんきれいな川が、山から流れ出ているのですが、それが、海へ流れ入らないで、海岸にそって少し流れてから、また、山すその岩でできている、ほら穴の中へ流れこんでいることでありました。そして、そのほら穴の中をのぞいてみますと、その入口の岩は、宝石がはめこんであるように、たくさんきらきら光っています。川底にもダイヤモンドだの、宝石だのが、ちらばっていました。それから、海岸の、どんなすみっこのようなところにも、難破船から打ち上げられた荷物が、ころがっていました。
さて、私の仲間は、食べ物がなくなるにしたがって、一人々々と死んでゆきました。それを私は、次から次とうずめてやりました。
そして、とうとう、私一人になってしまいました。私はもともと、何でも、ほんの少ししかたべないたちでしたから、それで私の食べ物が、一番おしまいまで残っていたのであります。
「ああ、悲しいことだ。私が死んだら、だれがうずめてくれるのか。ああ、どうしてももう、自分の国へ帰ることはできないのか。」
ある日のこと、そんなことを思いながら、川のふちを歩いていました。そして、岩穴の中へ流れこんでゆく水を、じっと見つめていました。そのうち、ふと、ある考えが浮かびました。
それは、この川は、一たんは山の中へ流れこんでいるけれど、きっと、またどこかへ流れ出ているにちがいない。そして、この川を下《くだ》ってみたら、ひょっとしたら、助かることができるかもしれない、ということでした。
それから、急に元気が出てきて、海岸にちらばっている、木や板を拾って来て、丈夫ないかだを組みました。そして、たくさんのダイヤモンドだの、ルビーだの、難破船の荷物だのを、つみました。それから、忘れないで、少し残っていた食べ物もつみました。
そして、よくよく気をつけて、いかだを岸からはなしました。
すると、すうーっと気持よく走り出して、すぐに、まっ暗なほら穴の中へ入りました。どんどんどんどん、私はそのまっ暗な中を流れてゆきました。川幅《かわはば》は、だんだんせまくなって、天じょうも、しだいしだいに低くなってゆきました。そして、頭をごつんごつんと打って、だんだん苦しくなりました。それで私は、いかだの上へぺちゃんこに、腹ばってしまいました。
やがて食べ物も、とうとうみんなたべてしまいました。こんどこそ、いよいよ死ぬのだ、と私はあきらめました。そして、いつのまにか、ねむってしまいました。
何時間も何時間も、そのままでいたらしいのです。何だか、がやがやいう声がするように思って、私はふと、目を開きました。
ああ、その時、どんなによろこんでとび起きたか、お察しください。私の目に、青々とした大空が入ったのです。川はしずかに、広々とした、たんぼの中を流れていました。
へんな声だと思ったのは、黒んぼが大勢《おおぜい》よってたかって、私のいかだを、土手の方へ引っぱっていこうとしていたのでした。
私には、黒んぼの言っていることが、ちっともわかりませんでした。しかし、その中にたった一人、アラビヤの言葉を話せる男がいました。それが、こう言うのです。
「まあ、しずかにしていらっしゃい。……あなたはいったい、だれですか。どこからいらっしったのですか。私どもはこの国の者です。たんぼへ出て働いていますと、いかだが流れて来て、その上にあなたがねむっていらっしゃるので、お助けしたのです。さあ、どうか、ここまでいらっしゃったわけを話してください。」
「ありがとう、いや、どうもありがとう。お話ししましょう。ですけれども、その前に、何かたべる物をくださいませんか。お腹がへって、声が出そうもないのです。」
黒んぼたちは、すぐに、食べ物を持って来てくれました。それで、私はやっと力がついて、気分もよくなりましたので、何もかも、くわしく話してやりました。
すると、みんなは、
「この人を、王さまのお目通りへ、つれて出よう。」と、口をそろえて言いました。
それから、私に、王さまはセレンジブさまというお名前で、世界じゅうで一番えらくて、一番の金持だと、話して聞かせました。
私は、よろこんで、ついて行くことにしました。もちろん、宝石などの入れてある、こうりも持って行きました。
セレンジブ王の御殿は、大へんりっぱなものでした。私は、まだ生れて一度も、あんなりっぱな御殿を見たことがありません。
王さまは、大そう私をいたわってくださいました。そして、私の申し上げる話を、大へんおもしろそうにお聞きになりました。
そして、私が、どうぞ自分の国へ帰らせてくださいませ、とお願いしますと、すぐに、船を出すようにと、家来にお命《めい》じになりました。それから、ご自身で、バクダッドの王さまへあてて手紙をお書きになって、私には、りっぱなみやげ物をくださいました。
こんなにして私は、バクダッドへ帰って来ることができたのであります。
そしてすぐに、カリフさまの御殿へ行って、手紙と、セレンジブ王からいただいたみやげ物とを、さし上げました。
「まあ、このコップは、たった一つのルビーをくりぬいて、こしらえたものじゃないか。おやおや中には、まあ、りっぱな宝石で、もようがかいてあるんだな。おや、これはまた、象《ぞう》でものみそうな、大きな蛇の皮じゃないか。ああ、背中の紋《もん》がまるで、金のように光ってるな。これさえあれば、どんな病気だってなおせる。」
こんなふうに、カリフさまは、手紙と、みやげ物を持って、大よろこびなさいました。それから、
「さあ、シンドバットや、セレンジブ王が、どんなにお金持で、どんなにりっぱであるか、話してごらん。」と、おっしゃいました。
私は、
「陛下、それは、とても私のつたない言葉では、申し上げることができないかと存じます。セレンジブ王は、いつも大きな象に乗っておいでになりますが、おそばには、金色の着物を着た千人の騎兵《きへい》が、つかえているのでございます。そして、王さまの金のほこ[#「ほこ」に傍点]には、エメラルドでかざりがついております。まあ、申してみれば、ソロモン王のような、くらしをあそばしていらっしゃるとでも申しましょうか。」
と、お答えしました。
王さまは、熱心にお聞きになりました。そして、私に、ごほうびをくださいました。
私は、家の者や、友達が待っているだろうと思って、大いそぎで家へ帰りました。それから、持って帰った宝物を売って、貧乏人にほどこしをしました。
その後は、しずかに、楽しい日をおくりましたので、今までの、おそろしかったことや、つらかったことは、遠い昔のゆめではないかとさえ、思うようになりました。
これで、シンドバッドは、第六航海の話を終りました。そして、お客さまたちに、あしたの晩もまた来てください、と言いました。
あくる晩、また、お客さまが、みんなテーブルについて、ごちそうがすんだ時、シンドバッドは、いよいよ一番おしまいの航海の話をはじめました。
一|番《ばん》おしまいの航海《こうかい》の話《はなし》
さて、六度めの航海の後は、私はもう、けっしてどこへも行くまいと、心にきめていました。もう、ぼうけんがしたいとも思いませんでした。
しかし、ある日、友達を呼びあつめて、ごちそうをしています時、召使の一人が入って来て、
「ただ今、カリフさまのお使がお見えになって、だんなさまにお目にかかりたい、とおっしゃいますが。」と、言うのです。
私は、お使を通させて、さて、
「どういうご用でございましょうか。」と、聞きました。
するとお使は、
「カリフさまが、お召しでございます。すぐにおいでください。」と、言いました。
仕方がないので、私はすぐに御殿へ出かけました。そして、王さまの前に出ました。
「シンドバッドや、ひとつお前にたのみたいことがあるのだがね。それは、ほかでもない。わしは、セレンジブ王に、手紙と、おくり物とを、さ
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