まだ生れて一度も、あんなりっぱな御殿を見たことがありません。
 王さまは、大そう私をいたわってくださいました。そして、私の申し上げる話を、大へんおもしろそうにお聞きになりました。
 そして、私が、どうぞ自分の国へ帰らせてくださいませ、とお願いしますと、すぐに、船を出すようにと、家来にお命《めい》じになりました。それから、ご自身で、バクダッドの王さまへあてて手紙をお書きになって、私には、りっぱなみやげ物をくださいました。
 こんなにして私は、バクダッドへ帰って来ることができたのであります。
 そしてすぐに、カリフさまの御殿へ行って、手紙と、セレンジブ王からいただいたみやげ物とを、さし上げました。
「まあ、このコップは、たった一つのルビーをくりぬいて、こしらえたものじゃないか。おやおや中には、まあ、りっぱな宝石で、もようがかいてあるんだな。おや、これはまた、象《ぞう》でものみそうな、大きな蛇の皮じゃないか。ああ、背中の紋《もん》がまるで、金のように光ってるな。これさえあれば、どんな病気だってなおせる。」
 こんなふうに、カリフさまは、手紙と、みやげ物を持って、大よろこびなさいました。それか
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