れがどうも、地の下で話しているようなのです。
 まもなく、草の間にかくれてあった穴から、ぬうーっと人が一人出て来ました。そして、私を見つけると、お前はだれか、どこから来たのか、とたずねました。
 それから、私を穴の中へつれて入りました。穴の中には、仲間らしい人がたくさんいました。そして、自分たちは、この島の王さまの馬がかりで、馬を買いに、この牧場へ来ているのだと言いました。
 私に、おいしい食べ物をくれて、
「お前さんは、ほんとうに運《うん》がいい人だよ。もし、あした来たんだったら、もう私たちは帰ってしまっていたからね。道を教えてあげることは、できやしなかったんだよ。」
と、言いました。
 あくる朝早く、私たちは出立《しゅったつ》しました。そして都《みやこ》につきました。
 王さまは私をよろこんで迎えてくださいました。私が出あったさいなんの話をお聞きになり、
「この者に、不自由をさせないように、気をつけてやれ。」
と、家来《けらい》にお言いつけになりました。
 さて、私は、大へん船がすきでしたから、そこにいる間、毎日のように、はとばに出かけて、ボートから荷物をおろすのを、見てくらしました。
 ある日のこと、いつものように、あちこちの船につんである、荷物をながめていました時、その中に、私の名を書いたこうり[#「こうり」に傍点]が、たくさんつんであるのを見つけました。それで、すぐに、その船長のところへ行って、そのこうりの持主《もちぬし》はだれです、と聞いてみました。
 すると船長は、
「ああ、それはね、バクダッドの商人の、シンドバッドという人のです。その人は、航海に出るとまもなく、むごたらしい死に方をなすったのです。ある時、この船に乗っていた人たちが、ねむっていた大きなくじらの背中を、草のはえている島だと思って、その上に上ったのです。そして、たき火をしました。すると、熱いので、くじらが目をさまして、いきなり海へ沈《しず》んでしまったのです。それで、たくさん人が死にました。その中にシンドバッドさんもいたのです。そういうわけですからね、私はこの品物をすっかり売って、お金にして、あの方の身内《みうち》とか、しんるいとかいう人でもあったら、お渡ししたいと思っているのです。」
と、話したのでありました。
 それで私は、
「船長、私がそのシンドバッドです。このこうりは、みんな私のです。」と、言いました。
 すると、船長は、急におそろしい顔をして、
「まあ、世の中はゆだんもすきもありゃしない。おい、お前さんが何と言ったってね、私は、ちゃあんとこの目で、シンドバッドが海に沈んだところを見たのだぜ。」
と、どなりつけました。
 私は、すぐに、あれから後のことを何もかも船長に話しました。ところへちょうど、船に乗っていた商人たちが出て来て、私をほんとうのシンドバッドだと言ってくれました。
 船長は、はじめて、大そうよろこびました。そして、
「すぐに、荷物をお引き取りください。」と、言いました。
 私はその中から、なるべく見事なものをえらび出して、王さまにさし上げました。それから、あとの品はみな売りはらって、びゃくだんと、にっけいと、しょうがと、はっかと、丁子香《ちょうじこう》とを買い入れました。
 それからもう一度、この船長の船に乗って出かけました。
 その帰りみち、私はある島で、持って来た香料《こうりょう》をみんな、大へん高く売ることができました。それで、いよいよバクダッドへ上る時には、一万円の金貨ができていました。
 家の者たちは、私が帰って来たので、大へんよろこびました。
 それから私は、少しばかりの土地を買って、小ざっぱりした家を立てました。そして、安楽《あんらく》にくらして、こわい目にあったことは、みんな忘れてしまおうとしました。

 ここで、シンドバッドは、一番はじめの航海の話を終りました。そして、音楽をはじめるように、また、もっとごちそうを持って来るように、と言いつけました。
 さて、それがすんだ時、シンドバッドは、金貨で百円ほどを、ヒンドバッドにくれました。そして、もしも二度めの航海の話が聞きたかったら、あすの晩の、今時分にまたおいで、と言いました。
 ヒンドバッドは、大いそぎで、自分の家へ帰って行きました。
 皆さん、その夜、まあどんなにヒンドバッドのおかみさんや、子供たちがよろこんだか、お察《さっ》しください。
 さて次の晩、ヒンドバッドは、一番いい着物を着て、シンドバッドの家へ行きました。
 ゆうべと同じように、大そうなごちそうが出ました。そして、それがすんだ時、
「皆さん。今晩は、二度めの航海の話をしようと思います。これは、ゆうべの話よりか、もっともっとふしぎなことがたくさんあります。」と、シンドバッドが申しました。

    
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