そぎで、森の中へ走って行きました。そしてそこで、七日ほどすごしました。
しかし、やがてまた走り出て、とうとう島のはんたいのかわへ行きつきました。
そこには、西洋人たちが、こしょうを取りに来ていました。そして私を見て、大へんびっくりしました。それから私の話を聞いて、なおなお、おどろいてしまいました。
「あのやばん人どもは、だれだって見つかりしだい、殺してたべてしまうのです。無事《ぶじ》ににげ出して来たのは、きっとあなた一人でしょう。」と、言いました。
それから私を、自分たちの船に乗せて、その国へつれて行きました。そして、王さまのお目通りへ、つれて出ました。
それから、みんなは、なかなかしんせつにしてくれました。
王さまも、とくべつにお取立てくださって、高い位《くらい》につけてくださいました。
さて、その島は、大へんお金のたくさんある島でした。そして、都《みやこ》では、さかんに商売が行われていました。私も、すぐに仕合せになって、満足していました。
しかし、この島で、おどろいたことには、だれもかれも、馬によく乗るのですけれど、くらやあぶみや、たづなを使う者がないのです。それで、ある日、私は王さまに、
「陛下《へいか》、なぜ、この国では、くらをつける人がないのでございますか。」
と、うかがってみました。
すると王さまは、ふしぎそうな顔をなすって、
「何を言ってるのかね。わしはまだ、そんな言葉を聞いたことがないよ。」
と、おっしゃったのです。
そこで私は、なめし皮を作る職人《しょくにん》の中から、りこうそうなのを一人つれて来て、りっぱなくらを作ることを教えました。そして、私もまた、あぶみだの、はくしゃだの、たづなだのを作りました。そして、これらがみんな出来上ってから、そろえて王さまにさし上げました。そして、どういうふうに使うということもお教えしました。
すると、すぐに王さまは、それをお使いになって、大そうおよろこびになりました。
また、それを見て、身分の高い人たちは、だれもかれもほしがりました。それで、私はまた、みんなに作ってやりました。
さて、そのうちに、私は、この島でも指おりの金持になってゆきました。
王さまは、とうとう私に、この島の美しい娘と結婚《けっこん》をして、この島の人間になってしまうように、とおっしゃいました。
私は、その美しい娘というのを見ました。すると、王さまのご命令通りにしたくなりました。それから二人は、一しょに仲よくくらしてゆきました。私は、そろそろバクダッドのことを忘れはじめました。
しかし、ある日のことでした。大へんなことが起ってしまいました。というのは、私がふだん仲よくしていた、近所のおかみさんが死んだのです。大へん気の毒に思ったものですから、すぐおくやみに行きました。そして、
「あんまりくよくよなさらないように。おかみさんはああして、早くおなくなりなすっても、そのかわりにあなたが、長生きがおできになりましょうよ。」と、言いました。
その人は、うつむいたまま、じっと私の言うのを聞いていましたが、やがて、
「よしてください。どうして、あなたは、私がこれから長生きができるなんて、おっしゃるのです。私はもう二三時間したら、家内《かない》と一しょに、うずめられてしまう身じゃありませんか。……ああ、あなたはまだ、この国のおきて[#「おきて」に傍点]をご存じなかったのですね。ここでは、妻《つま》が死んだら、夫はそれと一しょにうずめられるのです。そしてもし、夫の方が先に死ねば、妻がそれと一しょにうずめられるのです。」
と、言うではありませんか。
「まあ、なんておそろしいことだろう。そんなことは、とてもほんとうとは思われない。」
私は、それを聞いて、こうさけびました。
それから、王さまに、このことをうかがいました。すると王さまは、ただそれは、この国のおきてなんだから、そうされるのだ、とおっしゃったきりでした。
それから、だれに聞いても、これをふしぎに思っている人はありませんでした。
まあなんてこわいことだろう、なんていやなことだろう、と思っているうちに、とうとうそれが、私の身の上にふりかかってきました。ある日のこと、私の妻が、病気になったのです。そして、わずかのわずらいの後、とうとう死んでしまったのです。
すると、町の人がやって来て、妻に一番いい着物を着せました。そして、髪《かみ》には宝石をかざりました。それから、高い山の上へ運んで行きました。
山の上には、石が一つおいてありました。その石を持ち上げると、下は深い深い穴になっていました。そしてその中へ、私の妻は落されてしまいました。
私は、どうか助けてくださいと、ずいぶんたのみました。しかし、だれも、私が何を言っているのか、聞こう
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