さいませんでしょうか。もちろん、分《わ》け前《まえ》はさし上げるつもりなんですが。」とのことなのです。
そこで、私は、
「それは、けっこうなお考えです。だが、その商人の名前は、何というのでしたか。」
と、聞いてみました。すると、船長は、
「シンドバッドというのです。」と、答えたではありませんか。
私は、こうり[#「こうり」に傍点]についている、私の名前をしらべてみました。それから、船長に、
「その人は、ほんとうに死んだのですか。」と、聞きました。
船長は、
「それが気の毒なんです。とてもあの島では、助かっている見こみはありません。」
と、答えました。そこで、私は船長の手をとって、
「船長、私の顔をよーっくごらんください。あなたはこの顔に、おぼえはありませんか。私こそそのシンドバッドです。あのロックの島にとり残された、シンドバッドです。」
と、言いました。そして船長に、いろいろこわい目にあった話をして聞かせました。そのうちにだんだん、私がシンドバッドだということが、わかってきました。そして、大よろこびで品物をみんなと、今までにほかの島で私の品物を売ってもうけたお金とを、私に渡してくれました。
それからまもなく、私たちはバクダッドにつきました。私は、こんどの商売では、とてもかぞえきれないほど、お金をもうけていました。それで、もっと土地を買って、またたくさんのお金を貧民どもにほどこしました。そしてまもなく、あぶなかったことや、苦しかったことを、みんな忘れてしまいました。
そこで、三度めの航海の話は終りました。
シンドバッドは、また、ヒンドバッドに百円やるようにと、召使に言いつけました。
それからまた、ヒンドバッドは、第四航海の話を聞きに来ました。
四|度《ど》めの航海《こうかい》の話《はなし》
三度めの航海の後は、私は大へんゆたかに、仕合せにくらしていました。しかし、皆さん、あきれてはいけません。また私は、ただお金持で、ぼんやり家にいるのでは、どうも満足《まんぞく》ができなくなりました。旅をして、いろいろのぼうけんをしたいと思う心が、おさえても、おさえても、どうしてもやみませんでした。
私は、また、商品を買いあつめました。そして、仲間の商人と一しょに船に乗って、外国の港をさして、出かけました。
船は、いろいろの港につきました。私どもは、それぞれお金もうけをしました。
ところがある日、大あらしがやって来たのです。そして、船長でさえも、船をどうすることもできなくなってしまいました。
帆《ほ》は風のためにぼろぼろにちぎられて、まるでリボンのようになってしまいました。波は、何べんも何べんも、かんぱんの上をあらって、そのうちに船は、とうとう沈みはじめました。
乗組員と、お客さまの大部分は、おぼれてしまいました。しかし、私ども二三人は、やっと板きれに、とりつくことができたのです。そして、一晩じゅう、おそろしい思いをしながら、波にただよっているうちに、ある島へ流れつきました。
「生きているより、死んだ方がましだった。」
そう思いながら、夜があけるまで、海岸にたおれていました。
やがて、朝になってから、何かたべるものがほしくなったので、島の奥《おく》の方へ歩いて行きました。大して歩きもしないうちに、まっ黒な、やばん人《じん》のむれに行きあいました。
このやばん人どもは、すぐに私たちをとりまいて、自分らの小屋の方へ、引っぱって行きました。そして、まずはじめに、食べ物をくれました。私の仲間は、それをがつがついってたべました。けれども私は、もともと用心ぶかいたちですから、たべるふうだけしておきました。なぜかと言いますと、どうもこのやばん人どもは、人間の肉をたべているらしく思われたからです。
でも、ほんとうに、たべないでよかったのです。私の仲間は、食べ物をのみこむと、まもなく気をうしなってしまいました。そして、やがて気がついた時は、もうすっかり気ちがいになっていました。
これはどう見ても、やばん人どもが、何かたくらんでいるのにちがいないと思いました。
その次にまた、ごはんの上にやし[#「やし」に傍点]の油をどっさりかけて、持って来ました。この時は、
「はーあ、こうして、みんなを太らせておいてから、たべるんだな。」と、わかりました。
それとともに、私は大そうこわくなりました。それからは、いよいよ何にもたべませんでした。それで、大へんやせてしまいました。だれだって、殺してたべようとは思わないほどに、なってしまいました。
さて、ある日、年とったやばん人が、ただ一人、番をしているきりで、みんな出て行ってしまったことがありました。それで、私はやすやすとぬけ出すことができました。
私は、できるかぎり大い
前へ
次へ
全17ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング