を見ると、走って出て来ました。そして、
「まあ、シンドバッドや。私は、あの木の根が掘り返されていたもんだからね、お前は、死んだものだと、思いこんでいたのだよ。もうもう、お前には会われないとばっかり、思っていたのだよ。」と言って、うれし涙《なみだ》を流しました。
 私は、さっそく、象げの小山の話をしました。
 主人は、それを聞くと、よろこんで、とび上りました。
 それから二人で、一しょに小山へ行きました。私の言った通りだったものですから、主人はますます目をぱちくりさせて、しばらくは物さえ言いませんでした。
 やがて、
「シンドバッド、もうお前を、どれいでなくしよう。これからは、お前のすきなようにおし。それから、この象げを、お前も取ったらどうだね。うんと取って、お金をもうけたらいいだろう。……ああ、今まで、私のどれいが何人も何人も、この象がりのために命を捨《す》てたけれど、もうもうこれからは、そんなことをしなくても、よくなったんだねえ。まあ、これだけの象げがあったら、今に島じゅうが大金持になってしまう。」
と、言ったのでした。
 それで私は、もうどれいではなくなりました。そして、大へんていねいにしてもらいました。
 やがて、象げ船が入って来る時分になって、私は、この島にさようならをしました。そして、象げと、ほかの宝物を船にいっぱいつんで、ふるさとをさして帰って来ました。
 バクダッドにつくと、私はすぐその足で、カリフさまの御殿へまいりました。
 カリフさまは、私を見て、大へんおよろこびになりました。そして、
「シンドバッドや、わしは、ずいぶん心配していたよ。何かまた、へんなことが起ったのではないかと思ってね。」と、おっしゃいました。
 それで私は、海賊《かいぞく》の話と、象の話とを、お聞かせしました。
 カリフさまは、びっくりなさいました。そして、私の七へんめの航海の話を、すっかり、金の字で書きしるして、カリフさまのお宝物として、だいじにしまっておくようにと、家来にお言いつけになりました。
 それから私は、家へ帰って来ました。そして、それからは、ずっと、のどかに、家にくらしています。

 これで、シンドバッドの航海の話は終りました。それから、ヒンドバッドの方へ向いて、
「さて、ヒンドバッドさん。これで、どうして私が、こんな金持になったかが、おわかりになったでしょう。もう
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