って来たら、射るのだよ。もし、うまくあたったら、すぐに知らせにおいで。」と言って、帰って行きました。
 一晩じゅう、私は見はっていました。けれども、とうとう来ませんでした。
 しかし、夜があけてから、とてもたくさんの象が、ぞろぞろとやって来ました。
 そこで私は、矢つぎばやに、五六本、射てみました。
 すると、大きな象が一ぴき、ごろりと地の上へたおれました。ほかの象はおどろいて、みんなにげて行きました。
 私は、木からおりて、主人の商人のところへ、知らせに行きました。
 それから、また主人のつれ立って帰って来て、大きな象を地にうずめ、そこにしるしをつけておきました。こうしておいて、あとで、きばを取りに来るのです。
 その後、ずっと私は、この仕事ばかりさせられました。そのうち、またこわい目にあうことになりました。
 ある晩のこと、象が、にげて行くと思いのほか、私ののぼっている木のまわりを、とりかこんで、大きな声でうなりながら、足ぶみをしはじめたのでした。それはまるで、大じしんのようでした。そして、とうとう木の根を、引きちぎってしまいました。
 木は、めりめりと大きな音を立てて、たおれてゆきました。私は、あまりのおそろしさに、気をうしなってしまいました。
 しかし、すぐに気がつきましたが、その時、象は、その鼻《はな》で私をぐるっとまいて、高く持ち上げ、ぴょんと背中にのせました。私は一生けんめいに、背中にかじりつきました。
 すると象は、私をのせたまま、歩き出しました。
 やがて、森をぬけて、小山のふもとにつきました。この小山には、私はおどろいてしまいました。白くさらされた象の骨と、きばとで、うずまっているのです。
 象は、しずかに、私を地の上へおろすと、どこかへ行ってしまいました。
 私は、びっくりして、この象げ[#「象げ」に傍点]の山を、しばらく見つめていました。そして、象がこんなにかしこいちえを持っているのに、感心したのでした。
 象は、私をここへつれて来て、自分たちを殺さないでも、こんなにたくさんの象げが取れるということを、教えるつもりだったのに、ちがいありません。
 私は、ここはきっと、象の墓地《ぼち》なのだろうと思いました。
 私はさっそく、きばを二三本拾って、町へいそいで帰りました。主人に、このことを話して聞かせたいと、思ったものですから。
 主人は、私の顔
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