、私が、こうして、のんきにくらしているのを、不《ふ》つごうだとは、お思いにならないでしょうな。」
と、言いました。
すると、ヒンドバッドは、シンドバッドの前へ出て、ていねいにおじぎをして、その手にキッスしました。
「だんなさま、あなたさまは、そんなつらい目におあいになっても、よくがまんをなすったからこそ、こんなお金持におなりになったのでございます。あなたさまのなすった苦労《くろう》にくらべますと、私の苦労なんか、足もとへもよれないほどでございます。あなたは、きっと、行末《ゆくすえ》ながく、お仕合せにおくらしになるでございましょう。」
と、言いました。
シンドバッドは、この答えを聞いて、大へんよろこびました。そして、ヒンドバッドに、これから毎晩、ごちそうをするから、たべに来るように、と言いました。そしてまた、金貨を百円やりました。
それで、その後、ヒンドバッドは、とうとうシンドバッドのぼうけんの話を、残らずおぼえてしまいましたとさ。
底本:「アラビヤンナイト」主婦之友社
1948(昭和23)年7月10日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:京都大学点訳サークル
2004年11月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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