れい》いたしました。どうぞ、お気におかけくださいませんように。」と、言いました。
シンドバッドは、
「いや、なんで私が、お前さんをとがめたりするもんですかね。私は、お前さんを、ほんとうに気の毒《どく》だと思っていますよ。けれどもお前さん、私が、しじゅうのんきにくらしているのだと、思っちゃあこまります。それからまた、らくらくとこの財産《ざいさん》をつくり上げたと思っても、いけませんよ。これまでになるには、何年も何年も、全く命がけでかせいだからなんです。」と、言いました。
それから、ほかのお客さまの方へ向きなおって、
「そうです、皆さん、私が今までに出あった数々のぼうけんは、どなたにだっておできになることではありません。私がきょうまでにした七へんの航海《こうかい》の話は、まだ一度もお耳に入れたことがありませんでしたが、もしも皆さんが聞きたいとお望みになるのなら、今晩からはじめてもいいと思います。」
と、言いました。
それから召使に、荷かつぎの荷物を、家までとどけてやるように、と言いつけました。
ヒンドバッドは残って、一番はじめの航海の話を聞くことになりました。
一|番《ばん》はじめの航海《こうかい》の話《はなし》
私の父は、かなりたくさんの財産を残して死にました。その時分、私はまだ若かったものですから、それをむだ使いして、も少しですっかりなくするところまでゆきました。しかし、これはうっかりしていると、貧乏人になってしまうぞと、気がついたものですから、急に大決心を起しました。そして、残っているお金をかぞえてみて、商売をすることにきめました。それから私は貿易《ぼうえき》商人の仲間へ入り、船に乗りこむことにしました。次から次と、船がつく港《みなと》で、持って行った品物を売ってお金にしたり、また、あちらの品物ととりかえっこをしようと思ったからです。
まず、私の、一番はじめの航海がはじまりました。
はじめの二三日は、私はだいぶ、船によいました。けれども、やがて、だんだんなれてきて、よわなくなってしまいました。
さて、ある夕方のことでした。風がぴったりとしずまって、船のゆれも、ばったりとまってしまいました。
ちょうどその時、私どもは、青々と草のはえた、平たい小さな島のそばを走っていたのです。その島は、まるで牧場《まきば》のようで、その向うに青々と
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