て、天をあおぎながら、ひとりごとを言ったのです。
「まあ、なんて、ここの家の主人と、私とは、ちがうのだろう。まるで、天と地とのちがいだ。ここの家の主人は、毎日々々、お金を使いたいだけ使って、その日その日を楽しく遊ぶよりほかには、何にもすることがないのに、私ときたら、朝から晩まで、せっせと汗《あせ》を流して働いても、やっと、まずいパンを少しぽっちしか、買うことができないんだ。ああ、ああ、まあどうしてこの人は、そんなに仕合せになれたんだろう。そしてまた、私は、どうしてこう、年がら年じゅう貧乏なんだろう。」と。
そして、三十メートルばかり歩いていると、一人の召使《めしつかい》が追っかけて来て、後からヒンドバッドの肩をたたきました。そして、
「家のだんなさまが、お前さんに会いたいから、つれて来いと、おっしゃられた。さあ、ついておいで。」
貧乏な荷かつぎは、びっくりしました。きっと、さっきのひとりごとが、聞えたんだな、と思ったものですから。
けれども、召使は、そんなことにはおかまいなしで、さっさとヒンドバッドを家の中へつれて入り、大広間《おおひろま》へ通しました。
大広間には、大勢のお客さまが、テーブルをかこんで腰《こし》かけていました。テーブルの上には、おいしそうなごちそうが、いっぱいならべてあります。一ばん上座《じょうざ》に、まっ白いひげをはやしたりっぱなおじいさんが、どっしりと腰かけていました。この人がシンドバッドだったのです。
シンドバッドは、びっくりしているヒンドバッドの方を向いて、にこにこしながら、自分のとなりへ来て腰をかけるようにと、手まねきをしました。
そして、ヒンドバッドが腰をかけると、テーブルの上のごちそうを、とってやるようにと、召使に言いつけました。
召使は、ヒンドバッドの前の皿《さら》に、ごちそうをたくさんもり上げ、コップには、上等のお酒をなみなみとつぎました。
ヒンドバッドは、これは、ゆめではないかと、思いはじめました。
ごちそうをたべ終ってから、シンドバッドはヒンドバッドの方を向いて、さっき、まどの外で、何を言っていたのか、と聞きました。
ヒンドバッドは、大そうはずかしくなって、思わずうなだれてしまいました。そして、
「だんなさま、ごめんください。あの時は、大へんくたびれていたものですから、つい、ばかげたことを言って、失礼《しつ
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