木の枝だの、あし[#「あし」に傍点]だの、いばら[#「いばら」に傍点]だのを、できるかぎりあつめました。そして、それをたばにして、しっかりとゆわえ、それでもって、木の下に円い小屋のようなものを立てました。そして、そのてっぺんを、かたくかたくむすびあわせて、どこにも蛇が入って来るすきまがないように、ていねいに作り上げました。
 さて、その晩も、おそろしいざーざーいう音が聞えてきました。けれども、蛇はただ、小屋のまわりを、ぐるぐるとすべりまわっているだけでした。私は、おそろしさのあまり、死んだ人のようになって、ふるえながら夜をあかしました。
 こうしてまた、私は助かりました。そして、海べへ出て行きました。こんどこそは、もう身を投げて死のうと、きめて行ったのです。あんなおそろしい目にあうのは、とてもがまんができないと思ったものですから。
 しかし、ありがたいことには、海べに立って、沖の方をながめていますと、一そうの白帆《しらほ》の、こちらへ近づいて来るのが見えました。
 私はずきんをとって、むちゅうになってふりまわしました。するとまあ、なんてうれしいことでしょう、その船からはボートをおろしました。私を助けに来るのです。
 まもなく、私はその船に乗ることができました。そして、いっさいの話をしました。だれもかれも、私をかわいそうに思って、大そうしんせつにしてくれました。そして、新しい着物を出してきて、
「そのぼろぼろになった着物と、お着かえなさい。」と、言ってくれる人もありました。そのほか、いろんなことをして、私をなぐさめてくれました。
 そんなにして、航海をつづけているうちに、びゃくだんの木が、いっぱいはえている島へつきました。そこで、いかりをおろして、商人たちは島の人たちと取引をするために、陸《おか》へ上ってゆきました。
 そのあとで、船長が私を呼んで言うには、
「じつは、少しお願いしたいことがあるのですが、聞いてくださいませんでしょうか。ほかでもありません。まあ、このたくさんの荷物を見てください。これはみんな、この船に乗っていたバクダッドの商人のものなのですが、気の毒なことには、その人を、ある島へ、おき去りにしてしまったのです。それで私は、この荷物をみんな売りはらって、そのお金を、その商人の家の人にあげたいと思っているのですが、あなた、これを陸へ持って上って、売ってくだ
前へ 次へ
全34ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング