さいませんでしょうか。もちろん、分《わ》け前《まえ》はさし上げるつもりなんですが。」とのことなのです。
 そこで、私は、
「それは、けっこうなお考えです。だが、その商人の名前は、何というのでしたか。」
 と、聞いてみました。すると、船長は、
「シンドバッドというのです。」と、答えたではありませんか。
 私は、こうり[#「こうり」に傍点]についている、私の名前をしらべてみました。それから、船長に、
「その人は、ほんとうに死んだのですか。」と、聞きました。
 船長は、
「それが気の毒なんです。とてもあの島では、助かっている見こみはありません。」
と、答えました。そこで、私は船長の手をとって、
「船長、私の顔をよーっくごらんください。あなたはこの顔に、おぼえはありませんか。私こそそのシンドバッドです。あのロックの島にとり残された、シンドバッドです。」
と、言いました。そして船長に、いろいろこわい目にあった話をして聞かせました。そのうちにだんだん、私がシンドバッドだということが、わかってきました。そして、大よろこびで品物をみんなと、今までにほかの島で私の品物を売ってもうけたお金とを、私に渡してくれました。
 それからまもなく、私たちはバクダッドにつきました。私は、こんどの商売では、とてもかぞえきれないほど、お金をもうけていました。それで、もっと土地を買って、またたくさんのお金を貧民どもにほどこしました。そしてまもなく、あぶなかったことや、苦しかったことを、みんな忘れてしまいました。

 そこで、三度めの航海の話は終りました。
 シンドバッドは、また、ヒンドバッドに百円やるようにと、召使に言いつけました。
 それからまた、ヒンドバッドは、第四航海の話を聞きに来ました。

       四|度《ど》めの航海《こうかい》の話《はなし》

 三度めの航海の後は、私は大へんゆたかに、仕合せにくらしていました。しかし、皆さん、あきれてはいけません。また私は、ただお金持で、ぼんやり家にいるのでは、どうも満足《まんぞく》ができなくなりました。旅をして、いろいろのぼうけんをしたいと思う心が、おさえても、おさえても、どうしてもやみませんでした。
 私は、また、商品を買いあつめました。そして、仲間の商人と一しょに船に乗って、外国の港をさして、出かけました。
 船は、いろいろの港につきました。私ど
前へ 次へ
全34ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング